マリィのハッピー読書手帖

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「蜜蜂と遠雷(原作)」恩田陸の書評・あらすじ・感想

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「蜜蜂と遠雷」は、芳ヶ江国際ピアノコンクールを背景に、天才コンテスタント達の成長を描いた小説。ホフマンの推薦状にはカザマ・ジンなる人物の名が。彼は天性の音楽センスを持ち、周囲を根本的に変えてしまう。

 

 

 

恩田陸さんの紹介

恩田陸さんは、1992年「六番目の小夜子」でデビューされ、2005年には「夜のピクニック」で第26回吉川英治文学新人賞、第2回本屋大賞を受賞されました。2006年「ユージニア」では第59回日本推理作家協会賞、2007年には「中庭の出来事」で第20回山本周五郎賞を受賞されています。

 

↓恩田陸さんの本

 

↓クラシック音楽

『蜜蜂と遠雷』ピアノ全集+1(完全盤)(8CD)

↓コミック

蜜蜂と遠雷 (1)

 

「蜜蜂と遠雷」を読もうと思ったきっかけ

2019年10月4日より、松岡茉優さん主演で、映画が公開されているので、どんな内容なのか、原作を読んでみたかった。

 

「蜜蜂と遠雷」のあらすじ

エントリー
第一次予選
第二次予選
第三次予選
本選

主な登場人物

主人公(コンテスタント)

栄伝亜夜…恩師と母親を亡くし、燃え尽き症候群になってしまった。
風間塵…ホフマンの弟子。どんなピアノでも弾きこなせる。調律もできる。

マサル・カルロス・レヴィ・アナトール…ジュリアード音楽院生。ピアノ界のアイドル的存在。
高島明石…28歳。既婚で楽器店勤務。プロの夢を諦めきれない。

ジェニファ・チャン…マサルに対してライバル心と恋心を抱く。

 

コンクール審査員

嵯峨三枝子…元ピアニストでナサニエルの元妻。
ナサニエル・シルヴァーバーグ…マサルの師。ホフマンの弟子。
オリガ・スルツカヤ…赤毛のロシア美女。70歳近い。

 

その他の登場人物

ユウジ・フォン・ホフマン…塵の師。故人。ピアノ界の巨匠。
ダフネ…ホフマンの妻
菱沼忠明…作曲家。コンクールで楽曲を提供。

 

浜崎…亜夜の母親と音大の同期。名門音大の学長。
奏…浜崎の次女。ヴァイオリン奏者。亜夜の同級生。

 

綿貫先生…亜夜とマサルに音楽の楽しさを教えてくれた。ガンで急逝。

 

仁科雅美…TV記者。明石の高校時代の同級生。
満智子…明石の妻。物理の先生。
明人…明石の息子。

 

田久保寛…コンクールのステージマネージャー。
浅野耕太郎…コンクールのピアノ調律師。

 

あらすじ

芳ヶ江国際ピアノコンクールは、3年に一度開催される権威あるコンクールで、今年も名だたる天才ピアニストが、優勝を夢見て出場をする。

 

栄伝亜夜は、子供の頃から天才少女と騒がれ、CDデビューも果たしていたが、11歳の時に恩師、13歳の時に母親と死に別れたのをきっかけに、燃え尽きてしまい、コンサートをドタキャン。キャリアの道は断たれた。20歳。

 

風間塵は、父が養蜂家で各地を転々とし、ピアノも持たず、何の経歴もない。唯一ピアノ界の巨匠であるホフマンに推薦され、コンクールの出場権を手にした。「蜜蜂王子」と呼ばれている。16歳。

 

マサル・カルロス・レヴィ・アナトールは、日系三世のペルー人の母親を持ち、ナサニエル・シルヴァーバーグを師に持つピアノ界のホープ。「ジュリアードの王子」と呼ばれている。絶対音感の持ち主。19歳。

 

高島明石は、出場応募規定年齢ギリギリの28歳。既婚者で、楽器店に勤務しているが、音楽だけでは食べていけないと思い、プロの音楽家としての道を選ばなかった自分に対して、気持ちの区切りをつけたかった。

 

4人の主人公が、互いのピアノ演奏を聴くうちに、心境の変化が起こり、心の奥底の、本当の自分の望みに素直に従って生きたいと願うようになり、みるみると成長していく。

 

「蜜蜂と遠雷」の感想

「音楽を読む小説」という言葉がぴったりの本。この小説を読むときは、一番下に書いている、クラシック音楽を、YouTubeなどで聞きながら読んで欲しいです。イメージが脳裏に鮮やかに浮かんできて、臨場感が感じられます。

 

↓風間塵の第一次予選の曲

 

ここからネタバレ。

亜夜とマサルの関係

亜夜とマサルは幼馴染で共通の恩師である綿貫先生から「音楽に対する愛」を教わります。

マサルは幼いころ、両親の都合で日本を離れましたが、芳ヶ江で亜夜と再会します。マサルに綿貫先生を紹介してくれたのは、亜夜で、マサルは亜夜との約束を果たし、音楽でキャリアを積んできました。亜夜にライバル心と恋心を抱いています。

 

塵の絶対音感

塵は、聞いただけで、どんな音楽でも100%忠実に、再現します。

大学の誰かが弾いていたショパンのエチュードを、離れたピアノ室から「ユニゾン」で弾いたり、マサルの「カデンツァ」をマサルが乗り移ったかのように、ほぼ100%再現していました。

※ ユニゾン=同じ高さの音や旋律を、複数の声や楽器で奏でること。
※ カデンツァ=奏者が即興的に自由に演奏する部分のこと。

 

明石の心境の変化

明石は、自分はプロの音楽家になれなかった(ならなかった)というコンプレックスがあり、その気持ちは別の気持ちに置き換わり、長い間、世間に対する怒りとして、心の中にわだかまりがありました。

それが、亜夜がどんどん成長していく様を目の当たりして、感化され、自分の気持ちに正直になることを自分に許し、プロとして音楽をやっていこうという前向きな気持ちに変化していきます。

 

章ごとのタイトル

章ごとのタイトルは、ほとんどが曲名か、音楽に関連する言葉になっています。そのタイトルと連動したストーリー仕立てになっていたり、コンテスタントの課題曲にストーリーがぴったりマッチしていたり、とってもロマンティックで素敵です。

 

月の光(ドビュッシー)

マサルのカデンツァを聴いて、居ても立っても居られなくなった亜夜は、知人のピアノを借りに行きます。あとをつけてきた塵と、ピアノの連弾をするのです。

 

「お月様、綺麗だったね」

塵はドビュッシーの「月の光」を弾き始めます。

 

どこまでも満ちてくる月の光、寄せる、うねる、寄せる、泡立つ、しぶきがきらめく。どこまでも飛べそうだ。

 亜夜が衝動的に「月の光」を連弾すると…。

 

フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン

曲は変わり、

 

ベートーヴェン「月光」

完璧なユニゾンで弾いた後、

 

「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」

亜夜は、塵の「月光」にかぶせて次の曲に移る。

 

最後は、塵と亜夜とで「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」を連弾。
塵は16分音符で伴奏、亜夜は超高速グリッサンド。

 

無心になって、ただただ好きなことに没頭する二人。絶妙なコンビネーション。完璧に息の合った二人にとても感動して、胸がジーンとする、とても好きな場面です。

 

亜夜と塵との関係

亜夜は、ピアノが好き、音楽が好きなのに、周囲のコンサルタントのようには貪欲になれない自分を責めます。本当にこんな自分でいいのか?と何度も何度も自問します。

 

塵の課題曲(ショパン「即興曲 第三番変ト長調 Op.51」)

 

「おねえさん、ピアノ好き?」
「ええ、好きよ」
風間塵は、微笑んだまま、鍵盤に目をやる。
「どのくらい?」
「さあね。どのくらいか言えないくらい、好き」
「本当に?」

彼は、悪戯っぽい笑みを浮かべ、ショパンのメロディを楽し気に奏でる。

 

「僕はピアノ好きだよ」
「どのくらい?」
「そうだなあ」
風間塵は、ちらっと宙を見上げた。
「世界中にたった一人しかいなくても、野原にピアノが転がっていたら、いつまでも弾き続けていたいくらい好きだなあ」

塵は、コンテストに優勝したいとか、誰かに勝ちたいとかいう世俗的な欲
がほぼ無いので、コンクールの本番でも緊張しません。「ただ音楽が好き」という気持ちに正直に動くので、周囲が驚いたり、ざわめきます。

 

「分からない。だけど、音楽は本能だもの。鳥は世界に一羽だけだとしても、歌うでしょう。それと同じじゃない?」

聞く人がいない場所で、音楽をやる意味があるのか?という亜夜の問いへの塵の答え。

人生で一番大切なものは何かという本質的な答えで、何かハッとさせられます。塵からは、沢山のことを教えられました。

 

「僕とおねえさんは同じだもの。おねえさんは、僕の中に自分を見てただけだよ」

自由奔放な姿勢で音楽と接する風間塵を見て、亜夜は、塵と自分は同類であることに気付き、自分のありのままを受け入れるようになります。

 

そして、ピアノが弾きたい、音楽をやりたいという自分の気持ちに正直になることを自分に許すのです。

 

亜夜は、綿貫先生に音楽を教わっていた時は、ただただ楽しかった。でも多感な年ごろの時に、自分を支えてくれた恩師と母の2人を亡くし、目標を見失ってしまいます。

 

意地悪な周囲の、好奇な目にも潰されず、再び音楽の才能を取り戻せたのは、奏(かなで)や浜崎学長のサポートがあったから。そのことに彼女は気づき、感謝の気持ちを持つようになります。

 

亜夜は、コンクールですごく成長するんです。ここがとても心を打たれるものがありました。

クラシック音楽ってこんなに素敵な音楽だったんだなーと再認識しました。塵や亜夜の弾いた課題曲をひとつひとつ楽しみたいと思います。


「蜜蜂と遠雷」目次

エントリー

テーマ
前奏曲
ノクターン
トレモロ
ララバイ
ドラムロール
ずいずいずっころばし
平均律クラヴィーア曲集第一巻第一番
「ロッキー」のテーマ

第一次予選

ショウほど素敵な商売はない
バラード
間奏曲
スター誕生
イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン
ハレルヤ
ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ
ロマンス
歓喜の歌

第二次予選

魔法使いの弟子
黒鍵のエチュード
ロンド・カプリチオーソ
音の絵
ワルキューレの騎行
恋の手ほどき
月の光
虹の向こうに
春の祭典
鬼火
天国と地獄

第三次予選

インターミッション
謝肉祭
ロ短調ソナタ
仮面舞踏会
あなたがほしい
喜びの島
「仁義なき戦い」のテーマ

本選

オーケストラ・リハーサル
熱狂の日
愛の挨拶
ミュージック

 

第6回芳ヶ江国際ピアノコンクール

風間塵

第一次

バッハ「平均律クラヴィーア曲集 第一巻第一番ハ長調」
モーツァルト「ピアノ・ソナタ 第十二番ヘ長調K332」第一楽章
バラキレフ「イスラメイ」

第二次

ドビュッシー「十二の練習曲・第一巻第一番 五本の指のための/ツェルニー氏に倣って」
バルトーク「ミクロコスモス第六感より 六つのブルガリア舞曲」
菱沼忠明「春と修羅」
リスト「二つの伝説より 小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」
ショパン「スケルツォ第三番櫻ハ短調」

第三次

サティ「あなたがほしい」
メンデルスゾーン「無言歌集より 春の歌 イ長調 Op.62-6」
ブラームス「カプリッチョ ロ短調 Op.76-2」
ドビュッシー「版画」
ラヴェル「鏡」
ショパン「即興曲 第三番変ト長調 Op.51」
サン=サーンス/風間塵「アフリカ幻想曲 Op.89」

本選

バルトーク「ピアノ協奏曲 第三番」

 

栄伝亜夜

第一次

バッハ「平均律クラヴィーア曲集 第一巻第五番ニ長調」
ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ 第二十六番 告別 変ホ長調」第一楽章
リスト「メフィスト・ワルツ第一番 村の居酒屋の踊り」

第二次

ラフマニノフ「絵画的練習曲音の絵 Op.39-5 アパッショナート 変ホ短調」
リスト「超絶技巧練習曲 第五曲 鬼火」
菱沼忠明「春と修羅」
ラヴェル「ソナチネ」
メンデルスゾーン「厳格なる変奏曲」

第三次

ショパン「バラード 第一番ト短調 Op.23」
シューマン「ノヴェレッテン Op.21 第二番ニ長調」
ブラームス「ピアノ・ソナタ 第三番ヘ短調 Op.5」
ドビュッシー「喜びの島」

本選

プロコフィエフ「ピアノ協奏曲 第二番」

 

マサル・カルロス・レヴィ・アナトール

第一次

バッハ「平均律クラヴィーア曲集 第一巻第六番ニ短調」
モーツァルト「ピアノ・ソナタ 第十三番変ロ長調K.333」第一楽章
リスト「メフィスト・ワルツ 第一番 村の居酒屋の踊り」

第二次

菱沼忠明「春と修羅」
ラフマニノフ「絵画的練習曲音の絵 Op.39-6 アレグロ」
ドビュッシー「十二の練習曲 第五曲 オクターヴのための」
ブラームス「パガニーニの主題による変奏曲 Op.35」

第三次

バルトーク「ピアノ・ソナタ Sz.80」
シベリウス「五つのロマンティックな小品」
リスト「ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178」
ショパン「ワルツ 第十四番ホ短調」

本選

プロコフィエフ「ピアノ協奏曲 第三番」

 

高島明石

第一次

バッハ「平均律クラヴィーア曲集 第一巻第二番ハ短調」
ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ 第三番ハ長調 Op.2-3」第一楽章
ショパン「バラード 第二番ヘ長調 Op.38」

第二次

菱沼忠明「春と修羅」
ショパン「エチュード Op.10-5 黒鍵」
リスト「パガニーニの大練習曲 S.141 第六曲 主題と変奏」
シューマン「アラベスクハ長調 Op.18」
ストラヴィンスキー「ペトルーシュカからの三楽章」

第三次

フォーレ「ヴァルス・カプリス 第一番イ長調 Op.30」
ラヴェル「水の戯れ」
リスト「バラード 第二番ロ短調 S.171」
シューマン「クライスレリアーナ」

本選

ショパン「ピアノ協奏曲 第一番」

 

蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)

蜜蜂と遠雷(下) (幻冬舎文庫)

↓クラシック音楽

『蜜蜂と遠雷』ピアノ全集+1(完全盤)(8CD)

↓コミック

蜜蜂と遠雷 (1)